不可説日記

日常の何気ない出来事を極度に歪曲してつづります

雑記不可説ボツネタ集 スペシャル編#4 LIMBO-0***

故郷を発った私はLIMBO-0***へと到着した。この谷底の奥にゴミ捨て場行の列車の発着駅があると聞く。仮想夏祭りが開催中の俗世からこの禁足地に足を踏み入れた時、私はとてつもない疎外感と、まもなく言いようもない絶望感をおぼえた。ここには狂人が住んでいないと思った。LIMBO-0***に居たガソリンスタンドの店員は見る影もない。私は乾いた谷底を歩き続けた。何かが谷の上から見つめている。常にだれかを私は見つめている。しかしだれも私を見つめてはいないと思っていた。私は途中で山に登ったり岐阜県を見たりした。しかしある時ついに歩いている途中で地に臥した。まもなく近所の老婦人が私を迎えたが、駄目だ。つづいて谷の上からEQTOSがやってきて、私にたくさん化合物を垂らしてくれた。それでも駄目だ。ついにEQTOSは私にTMN-38への移動をすすめた。しかしTMN-38でも駄目だ。あやうくTMN-38-Lに足を踏み入れるところだった。まもなく谷底へと戻り、私は自力で数歩歩いた。そこに生えていた一輪の花の蜜をすすってなんとか持ち直した私は歩き続けた。駅を求めて。谷底に狂人は住んでいない。そう思っていた。唯一、CのS(Dは11月に消えた)が寒い部屋で私を支え、存在を許可した。しかし、やはり疎外感に苛まれながら、予定よりも早く駅に到着した。マニュマニュの群れがタイムラインに漂着したためだ。駅の入口にはこう書かれている「念のためバックアップを取ることをおすすめします」私はバックアップをDiscordから取得し、LIMBO-0***の入口に配置した。駅には「廃棄物急行」がすでに到着していた。早速乗り込もうとしたら、「ここから先は事実として存在しません」と車掌に勧告を受ける。「同意書と切符はお持ちか?」車掌が問う。そんなものはある。まもなく言葉によって列車は発車した。乗客はゼロ。谷底から得るものは何だったのか?ふと見ると、車窓には私に向かってあたたかいまなざしで手を振る人々がいた。仲間がいた。私は絶望感をぬぐえないまま存在しない列車に乗ってこの星を出発した。

ゴミ捨て場行きの急行が発車した。そのような列車は存在しない。それに乗った私は終点を通過して「不到港」に到着した。ここに到着することはできない。眼前には「不許可界」とこの宇宙の狭間の海峡である「不可説海」が広がる。不許可界に物質が侵入することはできず、ただ概念のみが入れる。それも、すでに棄却され、不許可とされた概念だけだ。そして不可説海には光子や物質がない。あるのは水と闇と言葉と船だけだ。私は不許可界とこの宇宙とをむすぶ「異観船」に乗るつもりだった。しかし乗船することはできず、どうしようもないまま船は出発した。私はまだ棄却されていなかったのだと気づいた。不可説海には光がないから何も見えなかった。しかしまもなく松明の火を焚き海を照らす小舟が見えた。「焚かせ舟」と呼ばれるそれに私は飛び乗った。すでに物質の部分は港においてきた。概念のみになった私は今、わずかな火の光を頼りに海の向こうの不許可界の光景を見、この手帳に書き留めている。(持参していた望遠鏡に加えて、船頭が持っていた「ファンタグラス」を装着しなければ光景は見えない。)そこには存在を許可されなかったさまざまな概念が存在していた。平らな島の中央に「須弥山」がそびえ、それに連なる「菟玖波山」の頂は快晴だ。川を下る軍艦が見える。納豆巻きのしゃべる声が聞こえる。駅前のロッテリアも、座高測定も、天然痘もそこに来ていた。科学もまもなく異観船に乗ってそこに到着するように私は見える。あと千年くらいか。(中略…私は無我夢中で手帳に「不許可界」で見たこと、それに加えて舟の下に広がるこの宇宙のさまざまなことを書き留めていた。港と海は宇宙で一番高いところにあったから、今まで見えなかったものも見えたのだ。)おや、汽笛がポー!と鳴った。目の前に異観船!ぶつかる!しずむ!「お前さんはいかがするつもりだい?許可されない覚悟はあるか?」と舟漕ぎが言う。「無い」と私は答えた。「よろしい。お前さんも分かってるじゃねいか」と舟漕ぎ。笑ってる場合か。もうすぐそこに-
(手帳の記録はここで終わっている。Google Drive上にバックアップとして存在していた私はその手帳を持って新聞部の部室に足を踏み入れた。)